わたしは美術にけっこう興味がある方ですが、そもそも林忠正という人は、
明治期パリで活躍した古美術商ということしか知らなかった。
なので先般から関連本を読んでいる。これで3冊目。
しかし正直、3冊読むと飽きますな。そんなに間を詰めて読んだわけではなくて、
多分1年強で3冊だと思うんだけど。
わりと視点が同じということもあるかな。実は1冊目2冊目ははからずも同じ著者で、
林の孫にあたる人の奥さん。読んでて気づかなかったほど身内的な書き方は皆無だったが、
「通説では、林はパリで浮世絵を乱売して海外流出をさせた張本人と言われているが……」
そんなことはないんですよ、ということは言いたいようだった。
落ち着いた書きぶりだったので、非常に納得出来たのだが、
別な視点からも読んでみたかった。なので今回は別な著者。
……だがこの著者も、実は林と同郷で、林の事績顕彰のために書いた側面はあるようだ。
内容はちゃんとしていますけど。だが視点としては前の作者と似ているので、
ちょっと食傷した次第。
この本で一番面白かったのは、林が、出身地である高岡の銅器産業の指導的立場にいた
白崎善平という人物に、対西洋への輸出品を考えるにあたっての心構えを説いているところ。
とても論理的で現実的で、ある意味ではわかりやすい。
・「なんとなく」で作っているので「用」(実用、観賞用も含めて)を足さない。
・値付けが適当で、売れなければ投げ売りになるので値段に納得感がない。
・過去に売れた品、その価格というのは適正でないことが多い。
・博覧会で売れたからといって、その後に似たようなものが売れるとは限らない。
なぜなら博覧会はお祭りで、単に目新しいものが売れる傾向がある。
・美術品と実用品を混同してはならない。
・美術品にも原価を考えず、ひたすら美を追求したものと、販売するための美術品がある。
見る目を持ち、なおかつ大金持ちしか買い手にならない。つまり買い手は千人に一人。
千人が買うものと千人に一人が買うものは違う。
多分これで5分の1くらいでしょうか。だんだん微に入り細をうがって
論が展開されていく。とても親切なことだと思うのだが、私が読んで感じたのは、
――パリという世界を知っていた上で、この内容ならある程度咀嚼出来るかもしれないが、
白崎善平が日本しか知らなかったら、これだけではわからないだろうなあ、ということ。
どんなに親切に細かく教えても、時代は明治ですからね。
今と違ってインターネットのようには情報は伝わらない。今だって海外のことは
実感を持ってはなかなか伝わらないのに、いわんや当時においてをや。
外国人は鬼か?鬼じゃないのか?――まあここまでではないだろうが、
とにかく外国・外国人に対する解像度が極低いはずなんですよ。
そりゃ林忠正は自分が行って知っていることで、その限りにおいては細かい説明なんだが、
白崎側がまったく海外指数がなかったら、忠正の手紙だけではわからない。
百聞は一見にしかず。
たしかに、もう少しみんなに知られていい人だと思うなあ。
浮世絵をたくさん売ったのは事実だろうし、それもあって本人が巨万の富を築いた……
それも事実だろう。だが、それを誠実に行なった人だとは思うのよね。
浮世絵に対しては本人自身はそこまで評価が高いわけではなかった。
というより、日本美術=浮世絵と見られることを恐れた。日本には仏像や漆芸、
さまざまな工芸品がある。浮世絵ばかりがもてはやされ、最上のものと思われては困る。
そんな思いがあったらしい。
1900年のパリ万博で、林は重要な役割を果たした。
日本美術についても、そしてパリについても経験と知識の多い、合理的な精神の持ち主
である林は日本美術の精髄を系統だててフランスの人々に伝えようと努力した。
それを受け取った美術家は何人もいたと思う。
林とゴンクールの繋がりは、ヨーロッパの地にジャポニズムを根付かせた。
だがこの万博で力を尽くしたことが遠因で、林は店をたたむことになる。
万博の仕事からの報酬は一切受け取らなかったそうだ。
弟もパリで失い、帰国してからたった4年で林は死ぬことになる。
自分のコレクションを基にして西洋美術館を作ろうとしていた。そのコレクションは
松方コレクションにまさるとも劣らない質だったという。
波乱万丈の人生。
ちょっと飽きたがゴンクールとの関係性に焦点を当てた本も読んでみる。
そして最後に「蒼龍の系譜」という小説を。これは木々康子が書いた小説で、
それで林忠正は締め。

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